スペイン風邪と第一次世界大戦
新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が世界的な広まりをみせ、WHOは世界的な流行(パンデミック)の兆しがあると宣言しました。
感染者数は世界で約8万人に迫り、死亡者は約2600人となっています。
しかし、今のところ感染者の多くが中国に集中し、致死率も2~3%と低い状況であるため、今後の封じ込めと効率的な検査方法やワクチン開発による事態の収束が期待されている状態です。
もちろん、この地域的流行(エピデミック)による経済的打撃や防疫体制の在り方、デマによる物資不足など多くの課題が浮き彫りになりました。
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そんな世界中をパニックにしている新型コロナウイルスですが、約100年前に世界中を恐怖のどん底に陥れた凶悪な伝染病が流行していたことをご存知でしょうか。
時は1918年、世界はヨーロッパで繰り広げられていた欧州大戦の行く末を見守っていました。
のちに第一次世界大戦と呼ばれるイギリス・フランス・ロシアの連合軍とドイツを中心とした同盟軍の戦いは4年目を迎えようとしていました。
1918年宣戦布告
この年、大戦の行方を左右する大きな出来事が起きます。
それまで、モンロー主義によりヨーロッパの戦争を静観していたアメリカが連合軍側に参戦をしたのです。
ドイツの無制限潜水艦作戦によるルシタニア号事件や秘密裏にメキシコに対して同盟への加入とアメリカへの攻撃を交渉していたツィンメルマン電報が明るみになるとアメリカ世論は参戦へと傾き、ウィルソン大統領はドイツに対し宣戦布告します。
もっとも、参戦の最大の理由は、英仏に貸し付けた戦時債権が敗戦により回収できなくなることを恐れたアメリカ経済界の圧力ともいわれていますが。
スペイン風邪
参戦の決まったアメリカでは兵士の動員と編制が矢継ぎ早に各地の基地で行われていました。
そんな中、カンザス州の陸軍基地で奇妙な感染症の報告がされます。
その風邪に似た病気は瞬く間にアメリカ兵の間で広まってゆきます。
そして、その病気はアメリカ兵とともに大西洋を渡り、敵味方問わずヨーロッパじゅうに広まっていました。
当時は両陣営ともに新型感染症の感染拡大は秘匿されていたため、その存在を初めて報告したのは中立国であったスペインに因み、この新たな感染症を「スペイン風邪」と呼んでいました。
ウイルスの拡散
スペイン風邪とよばれた感染症の正体はのちに新型のインフルンザウイルスであることがわかります。
ウイルスは突然変異を起こしやすく、スペイン風邪は徐々に毒性を強め、多くの感染者は肺炎を起こし死亡していきました。
その感染力は凄まじく感染は全世界に広まり、当時の世界人口が約20億人であったのに対し、約5億人が感染し、4000万~1億人が死亡したとされています。
第一次世界大戦の死者が約1600万人、のちの第二次世界大戦の死者が8000万人といわれているので、そのキルレコードの凄さがわかると思います。
さらに、人類の科学の英知を結集しておこなわれた、第一次世界大戦が4年間、第二次世界大戦が6年間の長きにわたりこれだけの犠牲者を出したのに対し、スペイン風邪は1918年から1919年のわずか1年半でそれ以上の犠牲者を出してしまったのです。
原因・理由
なぜこれほどに被害が拡大してしまったのでしょうか?
これには第一次世界大戦が大きく関わっているといわれています。
まず、人が密集する機会の増加です。
初めの感染が新兵訓練基地で発生するなど戦争遂行のために大勢が密集する状況が多くみられました。
アメリカ国内の基地で感染した兵士はヨーロッパへ送られ塹壕などの前線の劣悪な環境下での集団生活を強いられました。
そして、病原体は前線を超えて、敵味方問わず感染が拡大していったのです。
また、前線を離れた後方の市民の間でも軍需物資の大量生産を賄うために大勢が動員され、軍需工場などの集団間の感染拡大の原因となりました。
理由
次に消耗戦による消費物資の急増とそれに伴う物流の増加が考えられます。
第一次世界大戦は人類が経験する初めての国家総力戦でした。
兵士を含め、消費される兵器、弾薬、食糧がは莫大な量となり、それを補うために大量の物資が輸送さ、れ戦争という巨大な機械を回していました。
物資の輸送に伴い人が動き、それは戦線の巨大さゆえに世界規模になり、感染の広まる速度はそれまでの感染症の拡大スピードをはるかに上回りました。
記録によるとアメリカでスペイン風邪の感染が確認されてから、6か月後には日本での集団感染が確認されています。
最後に大消耗戦に伴う物資の欠乏と衛生状況の悪化があります。
巨大な戦線での必要物資を補うために民需品の流通が大きく制限され、国民の栄養状況は悪化し、免疫力低下による感染率や死亡率の原因となりました。
しかし、前線の兵士たちはさらに悲惨で、補給状況の悪化に伴うに食糧や医薬品の欠乏、戦場の極度のストレス、ネズミや蚤が蔓延する塹壕内での生活は感染の蔓延を助長し、師団単位での感染による戦力の減少が両軍に。
戦争の遂行そのものに影響を及ぼすようになり、戦争終結を早める結果となりました。
このように、スペイン風邪は国家総力戦という特異な状況により世界中に広まり、戦争や災害を含めた中で最も人類を死に至らしめた原因となりました。
その後各国とも公衆衛生教育や予防接種の普及、抗生物質をはじめとする治療法の確立に力を入れていきます。
まとめ
現在、アメリカ軍では軍事において重視すべきなのは敵戦力の殲滅ではなく自軍兵力の維持とされています。
兵士の感染症対策として、予防接種や衛生管理教育を実施し、師団レベルでは感染症対策を専門とする軍医を中心とした医療サービスチームが設置され、戦力の維持管理を担っています。
人類を脅かす感染症の存在でさえ、戦争という巨大事業の前では些細な障害要素でしかないのです。
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